宮部みゆき「蒲生邸事件」
「叫ぼうか」と、貴之がぽつりと言った。


読まず嫌いやめようキャンペーン中。
あまりに多くの人が誉めるから、へそを曲げて読んでなかった宮部みゆきであります。
 

前半部、主人公の孝史が好きになれず、いらついて読むのが嫌になった。
こいつ、卑屈でわがままで、思いつきで行動しすぎ。
それがタイプスリップを通して段々と思慮深くなり、
読んでいるこちらも「孝史、案外頭いいじゃん、いいやつじゃん」なんて思ったりする。
作者の力量だね。

貴之というキャラクターに好感を持ちました。
父親の蒲生大将は、未来を確認した結果、現在を変えようとするのだけれど、
結局うまくいかなくて絶望し、長編の遺書を残して、
あたかも今後の展望を見通していたかのように装い、
「死後(未来)の名誉」を手に入れようとする。
明らかにフライングでずるい。
息子の貴之がそれを、間違ったことだとしっかり認識していてよかった。
おぼっちゃんだし、臆病者ではあるけれど、落とし前はちゃんとつけるところが男前。

ところでこの「死後の名誉」で思い出したのが、
司馬遼太郎の「最後の将軍」でした。
徳川慶喜、歴史に「賊」として名が残るのを恐れて、ひたすら恭順した将軍。
なぜかというと、ちょうど並行して読んでいた「街道をゆく 甲州街道・長州路ほか」に
そんなくだりがあったから。
ヨーロッパでも中国でも、政治家は歴史に対して演技をする、
「歴史に対して演技をしないのは野蛮人」である、という説に対し、
司馬さんは、日本の政治家ではかろうじて慶喜がそれに相当する、と思う、という話でした。

わ、蒲生大将も相当するじゃない!と思って嬉しかったのです(フィクションだけどね)。
こういうシンクロがあるから本って楽しいよなぁ。

「歴史に対する演技」は、その歴史が語られる未来にどんなイデオロギーがあるかを見通した上でないと意味がないわけですよね。
現に「恭順」を貫いた徳川慶喜に対する、現代の評価(専門的な見地からではなく、一般大衆からの人気という面では)は、必ずしも高くないわけだし。
かなり頭がよくないと無理だね。
それか蒲生大将みたいに未来を知っちゃうかね(だからフィクションだって)。
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